のびパパ軽井沢日記:#4軽井沢のクマさん


 

画像1

散歩コースに「熊さん家」と書いた標識がある曲がり角がある。車の通るアスファルト道路から、雑草が道の真ん中に生えている砂利道に入るところである。
砂利道に入って上っていくと左手にブルーベリー畑があるので、僕たちは「ブルーベリー畑の小道」と呼んでいる。
砂利道に入ってすぐそばに「熊川」(仮名)という標識が、奥まったところの住宅へ連なる私道の外にたっている。「熊川」さんが、友人知人が訪ねてきたときに分かりやすいように、曲がり角に「熊さん家」という標識をたてているのだ。

この標識を見慣れているためか、軽井沢のあちらこちらで「目撃」されている熊のことを、僕は「クマさん」と呼んでいる。
たとえばワイフとも次のように、親しみをこめた呼び名で話題にしている。
「高架を走っている上越新幹線に、クマさんはどうやって入り込んだんだろうね」(『朝日新聞』2021年5月8日「新幹線がクマと衝突 軽井沢駅から2キロ、25分遅れる」新幹線がクマと衝突 軽井沢駅から2キロ、25分遅れる:朝日新聞デジタル (asahi.com)
「軽井沢のクマさんは目撃されるけど、他のところのクマさんと違って、人間に被害を与えてはいないんだよね」

なお「新幹線に衝突」したのは、軽井沢町が「さるくま情報」として「5月7日(金)午後6時30分頃、離山公民館から北東へ200m付近」で、さらに「5月8日(土)正午頃、歴史民俗資料館南側(旧雨宮邸)付近」で目撃された、と報じているクマさんだと思われる。

軽井沢町「さるくま情報」には、次のような注意喚起が毎回記載されている。

〈朝夕の散歩や山に出かける際には、必ず鈴など音のでるものを携帯しましょう。特に見晴らしの悪いやぶ付近を通行する際には十分ご注意ください。
また、ゴミ等は夜間、屋内で保管しましょう〉

僕が最初にクマさんを目撃(?)したのは、軽井沢で夏を過ごすようになった数年前、今は閉店してしまった山の上の天空カフェ「アウラ」に出かけたときだった(天空カフェアウラ | Facebook)。

友人夫妻を案内して「旧三笠ホテル」前を通り、「白糸の滝」に続く山道を登っていき、途中で左折してしばらくした時のことだった。不意に、車の前を大きな物体が通り過ぎた気がしたのだ。一瞬のことだったので、何が起こったのか、分からなかった。
「今、何か通ったよね?」
「うん。でも、何だろう?」
会話はそれで終わり、僕は車をそのまま蛇行した山道を走らせていた。
アウラ」では、共に過ごしたバンコク生活のことなどを語り合いながら、美味しいコーヒーを堪能した。
翌日、また「アウラ」に出かけた。友人が忘れものをしたからだ。
その時、「アウラ」に「付近でクマが目撃されました」との標識が立っていた。
昨日の「大きな物体」は、クマさんだったのだ。

ネットで検索すると、次のようなことが分かった。

クマは、それぞれ自分の「縄張り」(食料確保する地域)がある。
春先に生まれてばかりのコグマは、新たに自分の「縄張り」を作らなければならない。
当然だが、社会経験(?)の少ないコグマには、クマの居住地域と人間の居住地域の違いがあることを知らない。したがって「縄張り」を作るべく歩き回っている内に、クマの居住地域を抜け出し、人間の居住地域に入り込んでしまうことがある。
クマは元来、臆病な性格である。したがって、音が聞こえると近づかないように遠ざかる習性がある。
これが前述した軽井沢町の「注意喚起」となっている。

アウラ」での事件後、僕はすぐに「ケイオーD2」に出かけた。散歩するルートは、人間の居住地域だがクマの居住地域に近いため、安心して散歩するための「防御具」を購入するためである。
「散歩するときに音を出す鈴のようなものが欲しいのですが」
「あ、クマ鈴ですね」
店員はこともなげにこう応えた。
そうか「クマ鈴」というのか。地元民には必需品のようだ。
後日、朝7時半ごろ散歩に出かけ「クマ鈴」を鳴らしながら小学生が通学しているところに遭遇し、この感を強くしたものだ。

さらに、住居のゴミ箱から食料品の残骸を見つけると、コグマさんは「自分の縄張りはここだ」と、毎日のようにやってくるのだそうだ。だから軽井沢町が「ゴミ等は夜間、屋内で保管しましょう」と注意喚起しているのだ。

ところで、軽井沢でも「人間が被害にあう」事件が発生した。今年7月19日のことである。
軽井沢町「さるくま情報」は、2021年7月19日16:10に次のように「注意喚起」として報じている。いつもの「目撃情報」ではない。

〈7月19日(月)午後2時半頃、石尊山を登山中にクマに襲われ怪我をする人身事故が発生しました〉

続く「注意喚起文言」は前述したものと同じである。
そして、7月20日15:00に同じ文章で「注意喚起」を繰り返している。「目撃情報」にはない「繰り返し」である。

僕の理解では、これは人間が「クマの居住地域」に無防備に入り込んだ結果発生した事件である。
他人(?)の居住地域に入り込むときは、やはり、それ相応の「敬意」をもって対応すべきだろう。

これは、と海外生活21年の僕は思う。
日本人が海外で一時的に生活するときにも必要なことではないか、と。
どこの国にもそれなりの生活習慣がある。その多くが我々の生活習慣と大きく異なるため、我々はカルチャーショックを覚え、不足不満に感じ、日本人同士が集まると愚痴をこぼしがちである。
だが、僕たちは「お邪魔しています」との謙虚な気持ちで、その国の生活を楽しんだほうがいいのではないだろうか。

クマさん、人間の居住地域にはなるべく来ないでね。
来た場合は、人間が来たら逃げてね。
僕たちも、クマさんの居住地域にはなるべく近づかないようにし、どうしても入り込む場合は「音を出す」から避けてね。
何とかうまく「共生」しようね。